榎田基明
町並みゼミ2日目は5つの分科会に分かれます。会津田島を会場にした第5分科会に参加しました。
会津田島のまちの前に、車で20分ほど山中に入ったところにある奥会津博物館の見学です。民俗資料の展示の他、野外に南会津の古民家が5棟ほど移築・展示されています。どの建物も維持のため、地域の女性たちが毎日、囲炉裏に火を入れているそうです。
旧山王茶屋は会津津と下野の国境、山王峠にあった茶屋本陣を移築したもので、来館者のための古民家レストランとして使われています。
木地師が山中に留まって住まい仕事をするための木地小屋が復元されています。この建物は屋根も壁も茅ですが、実際には笹の葉で作られることが多かったそうです。
江戸中期の旧杉原家住宅は昭和40年代まで染屋として使われていました。
内部には現役の藍甕があり、藍染めの体験ができます。藍甕には熟成度合いがあるそうです。最も熟成=発酵が進んだ藍甕を開けてくれましたが、とても近づけるものではありませんでした。ましてそこで作業をするとなると相当慣れていないとできないので、体験には発酵が余り進んでいない藍甕を使うそうです。
次は会津田島のまち歩きです。田島は幾度となく通っていますが、父の仕事の関係で法務局に寄ったぐらいでまちのなかを歩いたことがなかったので、こんなに色々あるのかと…会津西街道の重要な宿場で幕府直轄の“天領御蔵入”だったので当然なのですが。
まちの背後、城山の山麓に旧南会津郡役所があります。1885(明治18)年建築の、洋風木造2階建てです。同時期にこのような庁舎が県内十数カ所に建てられたそうですが、その中でも北会津郡役所に次ぐ規模で、保存状態も非常によいとのことです。1970年、写真左側の田島合同庁舎を新築する際に曳家し、90度向きを変えて現在の場所に復元されました。
建物も素晴らしいですが、ガイドしてくれるおばさんの勢いと魅力に圧倒されてしまいました。この方に会うだけでも行く値打ちがあります。町並みや建築の魅力はハードだけでなく、そこに関わっている方の個性が加わることでさらに高まることをあらためて感じました。
次は田島の中心を通る会津西街道に面した昭和9年創業の「旅館和泉屋」です。
さまざまな材を使い凝った意匠の宴会場。思わず天井を見上げているのは講師の藻谷浩介さん。朝、奥会津博物館まで車でお送りしたのですが、この日は広島カープの優勝が決まる日で、熱烈な広島ファンの藻谷さんと野球の話しで盛り上がって道を間違え遅刻…ご迷惑をおかけしました。
和室の意匠も非常に手が込んでいます。
戦後、進駐軍の指定旅館に使われ、洋風の応接室や客室などがあります。
建築的にも歴史的にも見どころが一杯で泊まってみたい旅館です。
再びまちを歩くと石造の立派な建物がありました。栃木の大谷石を使っているので相当お金をかけたのではないでしょうか。お医者さんだったそうですが、今は使われていないとのこと。もったいない…
会津田島には、京都、中の津島(愛知)とともに日本三大祇園祭のひとつ会津田島祇園祭があります。4つの大屋台(本屋台、中屋台、上屋台、西屋台)があり、7月22日~24日のお祭りが終わると解体していたそうですが、現在は組み立てたまま保管庫に収められています。宵祭には大屋台の舞台で子供歌舞伎を上演しながらまちを巡行します。
和泉屋鮮魚店は、古くさい店構えに惹かれて撮りました。後で聞くと私が好きな「にしんの山椒漬け」が美味しいとのことで、翌日、買って帰りました。「にしんの山椒漬け」は会津の郷土料理で身欠きにしんを山椒の葉と実がたっぷり入った醤油に漬け込んだ保存食です。にしんの生臭さが残るのが普通ですが、和泉屋のものは下ごしらえが違うのかまったく臭みがありませんでした。
まち歩きのゴールは田出宇賀神社です。会津田島祇園祭はこの神社と熊野神社のお祭りです。会津らしい姿の山々が神社の背後に連なっています。穏やかな山形が木々に覆われるてさらに柔らかく見えるのが会津の山々です。
午後は室内での分科会です。はじめに藻谷浩介さんによる「南会津の存続を考える」という講演。
全国的に人口減少と高齢化が進んでいるが、実数で見ると最も深刻なのは東京であり、高齢化に対応するためこれから福祉に膨大な費用がかかってくる。地方都市や山間部などは、高齢化が進むといっても実数が少ないので財政負担はわずかである。地域内で人やお金が回るようにすれば消滅するようなことはない。地域の個性を魅力に感じる人びとも増えている。地産地消ではなく“地消地産(観光で人を呼び込む前に、自ら地元のものを消費し、なければつくってみよう)”から始めよう…と『里山資本主義』のエッセンスのようなお話しでした。
その後、3グループに分かれて、参加者の外からの目で見た田島の地域資源(ハードもソフトも)や魅力を地図にマークしながら、田島のまちづくりについてアイデアを出し合いました。