story
はじまり
地域に暮らす方々には馴染み深い存在のK教会。60年前にヴォーリズ建築事務所の設計により建てられました。
その教会に並んで、お揃いの赤い屋根の平屋の小さな家が建っています。老朽化が進んでいること、昔ながらの水回りが狭くて使いにくいことなどを解決するために、改修工事をされることになりました。
この家は教会のもので、教会員の方々によって維持管理される建物です。改修にあたって建築委員会が設けられ、設計コンペをすることになり、参加事務所のひとつとしてお声掛けいただきました。むぎ設計工房さんとの設計チームでの参加です。
「礼拝堂とつながる住まい」ならではの条件は
コンペの結果、設計監理の依頼をいただき、計画がスタートしました。
コンペで提案したプランをベースにしつつも、建築委員会で検討し直します。
増築はせずに、既存の構造体を補強して活かして使うことにしています。建築委員会で回を重ねながら、様々な想いやアイデアを出しあい、予算内に収めるために内容を絞り込んでいきました。建物の原型を活かしながら耐震補強と暮らしやすさを兼ね備えた住まいにガラリと変える設計になりました。
「礼拝堂とつながる住まい」ならではの視点として、
- ドア1枚で礼拝堂に繋がる既存プランを活かしながらも、礼拝堂と住まいのプライベートがきちんと分かれること
- 住み手さん家族は何年かごとに異動されるので、様々な家族構成を想定して暮らしやすいプランにすること
- 色々な人が集まりやすい温かさを持つ住まいであること
住み継がれてきた住まい
新築当初の青焼きの図面をお借りして現場と見比べながら、60年の間住み継がれてきた住まいの変遷を紐解いていきました。新築当初は6帖ひと間で設計されていたという図面の通り、解体工事中には基礎や外壁が現れました。教会設計にあたってヴォーリズ事務所と教会で行き来した書簡などもあって、1950年代の建築事情や世の中を覗いた気分でした。
工事中
週に一度の現場定例会議には住み手さんご夫婦も参加されて、現場の進み具合を確認していきました。
改修工事は、既存を解体してみてから現場で考えることがたくさんあります。住み手さんと工務店さん、設計者の3者が現場で寄って相談することで、知恵やアイデアを出し合えます。住む人、使う人それに作る人達もみんなで「いいな」と思える空間を目指していきました。
竣工式
3ヶ月あまりの工事期間を経て、竣工しました。
教会の教会員の方々が竣工式を開いて下さいました。
まず完成した住まいに集まり、牧師さんを囲んでお話をお聞きしました。聖書の言葉を引用しながら「皆が集まる家にしていきたい」という温かいお話し。
私たち設計者が工事中に話した「住む人、使う人たちが本当にいいと思える建物を一緒に考えてつくっていくのが設計の役目」と言っていたことも、みなさんに紹介していただきました。私たちの大事に思っていることをしっかりと受け止めていただいてるんだ、と、ほんとに嬉しかったです。その後は、隣の教会に移って食事をいただきました。大工さん、電気屋さん、給排水設備屋さん、ガス屋さんなどにもそれぞれに今回の工事への思いや苦労話などを話してもらいました。牧師さんご夫妻や教会員の方々からの感想もたくさんいただいて、みんなでこの住まいへの愛情を深められた、とても素敵な竣工式でした。
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玄関
玄関の位置は元のまま。勝手口として設計されていたので、教会のデザインに合うように玄関らしくしつらえました。
居間・キッチン
廊下と部屋が細かく分かれていたプランから、間仕切り壁の少ない可変性のあるプランに変えました。庭に向いた窓は大きく広げて縁側を付け、広さと光をたっぷりと取り入れて。キッチンは庭や家の中が見渡せる、家の中心に。キッチンのすぐ脇には家電収納とストック収納を兼ねた棚と、ちょっと隠れたコーナー。家事コーナーとしても、ワークコーナーとしても便利な空間です。
洗面室
ゆとりを持たせて、引き戸で出入りの幅も広くしたので、介助が必要なことがあってもこのまま使えます。窓も柱も、元あった位置を活かしています。洗面台の正面に窓があると明るい洗面台になるのでいいですね。ここでは鏡は収納の扉に取り付けて、必要な時に使えるようにしています。
寝室・納戸
もとは3間続き間の和室を間仕切り位置を変えて板張りにしました。床に張ったのは杉の無垢材です。杉は柔らくてさらりとして温かいので、裸足になってぺたんと座れます。畳とフローリングの中間のような床です。
建具枠の大きさを統一して、同じ引き戸を付けたり外したり、違う位置に付けたりできるようにしています。家族形態や使い勝手が変わったときも、間仕切り位置を変更して対応することができます。
住み手さんより
2014年12月、とてもすてきなお家ができました。
経済的など、制限が多い中、条件に合わせていろいろと提案してくださり、いいイメージを持つことができ、打合せも楽しい時でした。
30年前から改修を夢見つつ、時が経ちました。教会員の心よりの願いが本当にすばらしい形で叶いました。さっそくお客さまも来られることも多く、皆さんほっこりとして集われます。無垢の板張りはとても人気です。 大切に使わせていただきます。