西陣の歴史に生まれた京町家を受け継ぐ

この町家に出会い、はじめて中を見せていただいたときに、軸組みの素晴らしさに圧倒され、ここで仕事ができると気持ちいいだろうと、空想が膨らみました。ダイナミックな吹き抜け、時代の経過の中で作りかえられている部分はあるものの、建てられた当初の間取りは容易に想像がつきました。町家の特徴でもある、建具をはずせば続きの間になる、というのも仕事場にはちょうど良い条件です。その先には明るい庭があり、地に着いた環境で過ごしたいという皆の意見にもちょうど良い気がしました。

建物の寿命は私たちの生活にくらべて圧倒的に長くそこに存在します。今までここで過ごしてこられた先代の方々に続き、少しの間私たちがこの建物を使わせていただく、という気持ちを持ちながら、次の借り手に移ったとしても、建物の価値が継承されて使い続けられるようにフレキシブルにしておく必要があるのではないか、とも話し合いました。

また、町家を利用させていただくにあたり、設計事務所として、利用形態の提案にもなるようにしたい。町家を町家らしく、あまり奇をてらったものにせず、住み心地の良い住宅のようなしつらえも大切ではないかとも考えました。

一番頭を悩ませたのは、この圧倒的な吹抜けのある「とおりにわ」の存在です。軸組みの美しさはそのまま見せたい。暖房は空気をあたためるような器具は難しいだろう。2階の床がないので、構造的には弱点になりやすいなど。この問題点をひとつひとつ解決していきました。

吹抜けのある部分はひとつの空間にし、暖房は温水式床暖房。構造は2階の床のある部分で主に負担して、吹き抜けの両端に耐力壁を増設し、2階床に剛性を持たせることで地震の力を均等に流す計画です。

間取りはそれぞれが庭を向いて仕事ができ、さらにいろいろなコーナーで打ち合わせができたり、お茶が飲めたりと、広い建物をシーンによって使い分ける面白さを盛り込みました。表の間はもともとの建物の感じが一番残っているちょっと渋目のしつらえの応接室。庭に近いスペースはやはり一番よく使う皆の集まりコーナー。ここで会議をしたり、昼食を食べたりと、まるで居間のような使い方です。

さて、改修の途中で3社のシェアの話が沸き立ちます。日ごろから共同して仕事をしていたこともあって、仕事や活動のお付き合いを同じ建物内で、ある時は独立して、ある時は共同で仕事をする形態に発展させること。はじめての試みなので、難しいことも多くあるかと思われましたが、それよりも新たな未来や可能性が増えるのではないかとなんだかわくわくしています。この先もっと楽しいことが広がっていきそうです。まずは最初のお披露目会。1社では、なしえなかった沢山の試みがこれからも増えていくのではないかと思っています。

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