Works:Tさんの家 ―セカンドライフを始める、まちなかの住まい

story

はじまり

建て主のTさんは、ご夫婦のふたり暮らしです。
大学に勤務されていたご主人の退職をきっかけに、大学に近い郊外から、まちなかへ移ることにされました。
京都市の中心部、町家の町並みが残る地域に家を持っておられたので、その町家をお二人が歳を重ねても暮らしやすい住まいに改修することになりました。

住まい方を見つめ直して

これまでの住まいは、とても広々とした見晴らしのいいお住まいでした。子ども達と一緒に暮らしていた時期には、ご主人の本や家族みんなの物などたくさんの部屋や収納が必要でしたが、これからの住まいでは「必要なものだけを持って暮らしていく」と決めておられました。

これからの住まいとなる町家はこれまでの家と比べればずいぶん小さな家ですが、お二人であまり物をもたず、生活の便利が良いまちなかで楽しみながら暮らされるのには、ちょうどいい住まいになりそうです。
この町家は長い間ギャラリーや貸家として使われていました。1階部分は大きく改修されていて、家の前に駐車スペースを作るために1階の外壁を後退させて2階が迫り出した形になっていました。間取りも変わっていましたが、じっくり眺めていくと元の伝統的な京町家の姿が浮かび上がってきます。

町家の間取りを活かした計画

まずは、建物の調査をして、現況図を作成しました。建てられた当時の姿はどうだったのか、その後の改修工事はどのようになされたのか、建物に無理が掛かって傾いている部分の原因は何か、改善策は???と、探っていきました。
そして、構造的には建てられた当時の姿に戻し、なおかつその当時から無理が掛かっていたと思われる箇所を補強する、強すぎない接点をたくさん作るといったことで、京町家の伝統的な架構を活かした改修をすることにしました。
さらに防火性能、断熱性能を上げ、バリアフリーに配慮して、安心して快適に暮らせるよう、話し合いました。
そして、持って行く家具と荷物の量を決め、それらをどのように収めるか、必要な収納スペースが確保できるよう物の場所を決めながら設計を進めました。

工事中

毎週行われる現場での定例会議には、Tさんご夫婦も参加して下さいました。
どのように構造補強をしたのか、途中で変更した排水経路はどこを通すのか確認したり…
立ち上がってきた壁面を見ながら完成をイメージして、壁紙や襖などの色を相談したり…
収納棚の高さを決め直したり…

Tさん、設計者、工事施工者、3者が顔を合わせて相談することでさらに工夫が重ねられていきます。

新しい暮らしの始まり

「まちなかで暮らしたい」という奥様の願いを叶えるための改修計画だったと思っていました。
でも、先日引っ越しされてひと月後のTさん宅にお邪魔したら、ご主人と奥様二人で口を揃えて「楽しい!」とおっしゃっていました。そして、市内で近々行われるイベントの話になると、ご主人が奥様に「行ってみましょうか?」と、本当に楽しそう。
小さな家は、いろいろと行き届きやすくて暮らしやすいそうです。奥様は「この家に慣れるほどに、家の使いやすさを実感してます」と言って下さいました。
新たなセカンドライフ、素敵ですね。

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玄関

ギャラリーとして改修されて後退していた外壁面や玄関の場所は、元の位置に戻しました。

写真:玄関と格子のある掃き出し窓

玄関と格子のある掃き出し窓

写真:玄関

玄関

木製格子の引違い戸を開けると2箇所の入口。一方は表の間へ、もう一方はキッチンへとつながります。

写真:戸を開けた玄関、まっすぐ進むとキッチンにつながる

戸を開けた玄関、まっすぐ進むとキッチンにつながる

小さな玄関がすっきり見えるように、下駄箱以外にも脱いだ靴をちょっとしまっておけるスペースを作りました。

写真:玄関の上がり框の下につくった下足入れ

玄関の上がり框の下につくった下足入れ

表の間・居間・キッチン

南北は隣家が接しているので、窓は表と裏の2方向のみです。自然光が入りにくい京町家ですが、表の間と居間の間仕切りは、引き込めるようにして欄間をオープンにして光と風が通りやすいようにしています。床は桧の無垢材、床暖房が入っています。壁は、珪藻土クロス、一部にシナを張っています。完成したての今は、同じように白く見えますが、時が経つにつれてシナの部分は色が濃くなって古材との馴染みもよくなって来ると思います。
間仕切りのガラスの格子戸は、既存の縁側に使われていた建具を、下框を継ぎ足して高さを上げて再利用しました。新設の建具もそれに合わせて同じデザインで作っています。

写真:表の間から居間とキッチンを望む

表の間から居間とキッチンを望む

写真:表の間から居間を望む

表の間から居間を望む

写真:居間からキッチンと表の間を望む

居間からキッチンと表の間を望む

既存の天井を部分的に残しています。昔の意匠の名残を引き継いで楽しめるのは、改修工事ならではですね。

写真:部分的に残した既存の天井

部分的に残した既存の天井

キッチンは居間と玄関、両方から出入りできます。回遊性のある家事動線です。
作り付けの家具は、手前にゴミ箱置き場、あとは全て引出しです。炊飯器や電子ポット、その他の細々としたものは壁の内側のオープン棚に置くようにして、リビングからは見えないようにしています。

写真:キッチンから見た玄関への扉と居間

キッチンから見た玄関への扉と居間

洗面・脱衣

建具はすべて引戸です。もしも将来、介助が必要になった時にも引戸を開けたまま、空間を広く使えます。トイレ入口の欄間はガラスの引戸で、換気や採光の役目もします。

写真:洗面・脱衣所とトイレ入り口

洗面・脱衣所とトイレ入り口

2階

階段の勾配を緩やかにして上り下りが安心になりました。トイレは新たに設けました。
床は杉の無垢材で張っています。

写真:階段と2階の廊下

階段と2階の廊下

写真:2階、奥の間、階段ホールとトイレ

2階、奥の間、階段ホールとトイレ

2部屋ある和室は、ご夫婦それぞれの部屋です。間仕切り位置はそのままに、収納を増やしています。

写真:2階、奥の間から表の間を見る

2階、奥の間から表の間を見る

写真:2階、表の間

2階、表の間

おまけ

2階の杉の床、階段、1階の洗面まわりの桧の床は無塗装の無垢材です。
足触りが気持ちよく、夏はさらりと、冬は空気を含んで暖かく感じますが、はじめに浸透系のオイル塗料を塗っておくと、足触りはそのままに汚れ防止になります。
簡単に塗れるので引っ越し前に建て主さんに塗ってもらうこともありますが、今回は竣工のお祝いに私たちで塗装をしました。

写真:桧無垢材の床に塗ったオイル塗料「アルドボス」と工具

桧無垢材の床に塗ったオイル塗料「アルドボス」と工具

写真:桧無垢材の床にオイル塗料を塗る作業の様子

桧無垢材の床にオイル塗料を塗る作業の様子

竣工検査から引っ越しまでの日が無かったので、大急ぎ。なんとか間に合いました。ほっ。